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【映画】帰ってきたヒトラー

●帰ってきた怪物

-1933年の当時、大衆が扇動されたわけではない。彼らは計画を明示したものを指導者に選んだ。私を選んだのだ。-


「帰ってきたヒトラー」より




アドルフ・ヒトラーは独裁者であり、第二次大戦において世界中に混沌と破壊をもたらした一因となったことは誰もが知っているところです。
そして、いまなお、ドイツではネオナチといった彼の信奉者は存在していて、戦後70年以上経った今でも彼の絶大な影響力は衰えていないのです。

  2018年2月3日にイタリアでアフリカ系移民を狙った無差別テロが発生しました、その犯人はヒトラーが執筆した「我が闘争」を読んでいたということです。
(ちなみに、ドイツにおいてはこの本の販売は違法とされています。)

そんな、アンタッチャブルな存在でもあるヒトラーが現代によみがえったというあり得ないストーリーにくすっとさせられながらも、よく考えると背筋が寒くなる、そんな本が「帰ってきたヒトラー」です。

なぜなら、彼の言っていることが正しいように聞こえてしまうから。


コメディアンですか?

 
第二次世界大戦末期の包囲されたベルリンにおいて、自殺後にガソリンをかけられて燃やされるところからはじまります。
このころのヒトラーは病気で手の震えがとまらないうえに、ものすごく短気になっていてまともな判断が下せていなかったようですが、よみがえったヒトラーはなぜか震えがとまり、たぶんチェコを併合する前くらいのキレッキレの状態です。
全盛期のヒトラーの政治センスと演説スキルはものすごいものがあります。

そして、なぜか燃えておらずガソリン臭い状態で復活して軍服を電撃クリーニングします。

彼は、ヒトラー本人なので、普通に生活しているつもりなのだが、その話し方や一挙手一投足が大仰であり、当然やたら当時の状況に詳しいため

ヒトラーのそっくり芸人

 として周りからキワモノとして扱われてしまうハメになります。(本人だけどw)

注目が集まりTVに出演するようになった彼は、あの独特の演説方法で聴衆を引き込み、またしても政党を乗っ取り(史実でも乗っ取っている)、徐々に影響力を広げていくヒトラー。
 しかし、最初に彼をコメディアンとして見出した青年が、ついにヒトラーの正体に気づいてしまい・・・という内容です。


全体としてはコメディタッチで描かれているが、その根底にはある示唆が見えます。
それは、自民族中心主義、全体主義といった、ヒトラーを代表する思想が現代に復活しつつあることへの警告です。
そういった思想の体現者としてのヒトラーなのでしょう。
聴衆はコメディだとおもっていますが、すでに各国で自民族中心主義そのものが蘇えっています。

ヒトラーがいた当時のドイツにおいても、弱小勢力だったNSDP(国家社会主義ドイツ労働者党)の存在など誰も気にしていませんでした。
ミュンヘンのビアホールに集まるしょぼい地域政党に過ぎなかったからです。
それが、あれよあれよというまに野党第一党、そして政権与党となってしまったのです。
そこには第一次世界大戦で天文学的な賠償を負わされ不満がたまりにたまったドイツ国民の意思が深くかかわっています。
これって、いまのアメリカ大統領の誕生に似ていませんか?
最初は泡まつ候補に過ぎなかったのが、あれよあれよという間にトップにまで上り詰める・・・  

そして・・・


彼は、ドイツを覆っている政治的な問題を訴えかけます。

 例えば移民問題です。

移民の問題は、欧州を含め世界のあちこちで起きています。
この問題が人種差別もからんでいて、複雑で、容易に解決できないことはわかりますが、確実に間違っているのは暴力や差別によってその問題を解決しようと試みることだと思います。
新聞社の襲撃や、移民への無差別事件などが起きていますが、これはかつてナチスドイツでも行われていたことではないでしょうか。



我々は、悲惨な第二次世界大戦を経験したにも関わらず、またその道をたどろうとしているのでしょうか。



そういったことを、コメディ要素を含めて考えさせられる非常に面白い本である。映画化もされているので、そちらもぜひ。
これまたヒトラーの俳優が上手で面白い。ヒトラー最期の十二日間のブルーノ・ガンツのパロディもでてきます(笑)

本と比較すると映画版はヒトラーが犬を射殺したりと、粗暴になっています。




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